前回、スキンヘッドの話を書き終わって、数時間後のことだ。

 頭上で暮らす女が、叫びながらアパートのビルディングから飛び出してきて、そのまま叫びながら走り去った。まったく、このアパートはどうなってるんだ???

 我々の頭上にはギャングが暮らしている。女はギャングの商売道具、フッカー(売春婦)だ。ギャングは女を愛していないけれど、女はギャングを自分の男だと思っている。彼女は愛する男のために、見知らぬ男とセックスをする。
 しか~し、彼女はただの商売道具なので、彼女には現金が入らないシステムになっている。彼女はギャングと出掛けるたびに、鉢植えを買って戻ってくる。どうやら、それが彼女への報酬のようだ。ギャングのポルシェから、彼女が鉢植えを抱えて降りてくる。それは、彼女の身長と同じくらいの大きさで、とっても重そう。しかし、ギャングがヨロヨロと歩いている女に手を貸したことは一度もない。
「愛は絶対にないよなあ・・・」
と窓から見ていて、つくづく思う。

 しかし、我々が彼女のことを気の毒に思うことはない。なぜなら彼女は隣近所の迷惑など一切省みず、明け方であろうが、真夜中であろうが、大暴れをするからだ。
 彼女の大暴れは、ギャングが留守のときに起こる。彼女は、ギャングが彼女を置き去りにして、出かけることが、どうしても耐えられないらしい。
 目覚めたときに、男がいないことに気付くと、Nワード(ニガー)やFワード(ファック)を使って叫びまくり、ギャングのことをクソミソに言い、部屋を破壊する勢いで暴れまくる。警察がきたのも一度や二度ではない。

 この日は、ギャングが彼女を残して、友達と出掛けようとしたので、
「ぎゃ~!!!」
 と、部屋から飛び出したらしい。

 ちなみに、この友達はジェイル(牢屋)から出てきたばかり。出所後そのまま、ガールフレンドとともに、頭上で暮らすようになった。

 女は部屋から飛び出せば、男の考えが変わり、一緒に連れていってくれると思ったのかもしれない。しかし、彼女の予想は大ハズレ。彼女が飛び出した隙に、三人はポルシェに乗り込み、とっとと出ていった。

「あの女、鍵持ってないんちゃう?今夜は静かかも~」
 と、ダンナは喜んだ。

 しかし、彼の予想も見事に外れた。しばらくして、頭上で足音が聞こえたかと思うと、
「ドッターン!!・・バッターン!!・・ガッチャーン!!・・バキバキバキ!!・・」
 という破壊音とともに、
「ニガー!!!!!!殺してやる~!!!!!ファ~ック!!!!!」
 彼女のギャングを罵倒する言葉が、アパート中に響き渡った。
 それはいつも以上に激しく、長時間続いた。

  シカゴやニューヨークなら、
 「黙れっ!ビッチ!!!」
  と、あちらこちらの窓から、人々が顔を出して叫んでいるに違いない。

 しかし、比較的温厚で、おとなしいシアトル人が、直接文句を言うことはない。けれども今回の叫び声には、さすがのシアトル人も耐えられなかったらしい。しばらくすると、アパートのセキュリティと警察官がやってきた。
 「レイディ、外に出てきなさい」
 と、セキュリティの男性が、ベランダにいる彼女に声をかけた。すると女は、
 「助けてほしいの ・・・」
 と、信じられない言葉を吐いた!しかも、これまで叫んでいたのは誰なんだ???と思うくらい、弱々しい声だ。

 我々は顔を見合わせた。次の瞬間、ダンナがコートを着て、部屋から飛び出して行った。

 この国で、白人女性が助けを求めた場合、それが嘘であっても、女性の言い分が通る可能性は非常に高い。対象が黒人男性であれば尚更だ。さらに黒人男性の場合は、逮捕される際はもちろん、刑務所に入ってからも、警察官から暴力を受ける可能性がある。彼女の嘘が、頭上のギャングの命を奪うことも有りうるのだ。

 ダンナは、頭上のギャングにうんざりしている。しかし、キチガイ女の嘘によって、ブラザーが危険な目に逢うことだけは、阻止しなければならない。彼は、警察官に彼女がひとりで暴れていること、これが初めてではないことを説明するつもりだ。

 ダンナが話していると、二人の住民が出てきた。どうやら、彼らが警察に電話をしたらしい。ひとりは女と同じ階に住んでいる女性で、もうひとりは、かなり離れた部屋の男性だった。男性は、
「殺してやる!」
 という女の叫び声を聞いて、これは放置できないと思って、電話をしたらしい。二人とも、ダンナの話が真実であることを証明してくれた。
 
 警察官に連れられて降りてきた女は、オドオドした様子でダンナたち三人の顔を見た。
「あなたたち誰・・・?私、あなたたちの誰ひとり知らない・・・」
 と、つぶやいた彼女は異様に怯えていた。

 結局、彼女はパトカーに乗ることを全力で拒否し、タンカに縛り付けられて、救急車で運び去られた。酒なのか、ドラッグなのか、二重人格者なのか、さっぱりわからないけれど、やっとアパートに静寂が訪れた。

「あの女、リハビリか、病院か、刑務所か、どっかに入れられるんちゃう?どう見ても、正常じゃないし。彼女は住民ちゃうし、何度も警察沙汰を起こしてるから、オフィスもこのままにはできへんやろー!」
 と、ダンナは大喜び。

 他人の出す音を忌み嫌う彼の口からは、
「騒音によって殺人事件も起こりうる・・・」
 というフレーズが、過去に何度か発せられた。彼の怒りもマックスに達しつつあったのだ。もちろん、ダンナが殺人犯になることはない。けれども、殺人をおかしそうなくらいの怒りを受け止めるのは、頭上の女ではなく、私なのだ。勘弁してほしい。

 しかーし、これで我が家にも平和が訪れる!!!

 翌日の夜、ギャングとジェイル男とそのガールフレンドが、ポルシェに乗って戻ってきた。どうやら彼らは、昨晩の騒ぎを知らないらしい。頭上で、部屋の扉をノックする音が聞こえた。何度かノックした後、ギャングが鍵を使って部屋に入った。部屋の様子を見たギャングは、彼女が警察官を部屋の中に入れたことに気付いたのかもしれない。
 三人はものすごい勢いでビルディングから飛び出してきて、ものすごい勢いでポルシェに乗り込み、猛スピードで走り去った。

「24時間後に、同じメンツで帰ってくる。コケインか、それ以上のドラッグしかないで。コケインに手出したら、あいつはジェイルに入るか、殺されるか、どっちかや」
 と、ダンナが言った。

 正直、ピンプでドラッグディーラーのギャングのことなど、我々にとってはどうでもいいことだ。ところが、この男はギャングのくせに愛想が良いのである。
「あの男、ニコニコしすぎや。シカゴには、あんなギャングはおらん」
 とダンナは言う。
 私は、隊長ダンナから、
「あの男と関わるな!!!ニコニコするな!!!」
 と指令が出ているので、無視してもらえるとありがたいのだが、ギャングは私を見ると、笑顔で挨拶をする。 

 どうでもいいし、関わりたくないし、いなくなれば忘れてしまう、その程度の存在だけれど、きちんと笑顔で挨拶をする彼のことは、なんだか憎めない。ダンナも同じ気持ちなのだろう。

「ギャングは逮捕されるのかな~・・・」

 頭上は静かになったけれど、なんとな~く大喜びする気にならなかった。

 


好きなシンガー4人がそろった!!!☺️


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